金曜日, 3月 03, 2023

本:「帝国」ロシアの地政学 「勢力圏」で読むユーラシア戦略

 著者、小泉悠を最初に知ったのは twitter だったと思う。当時は「ユーリ・イズミコフ」という名前で、ふざけたことを話す人だというイメージしかなかった。そのあと、ウクライナ戦争が始まって、色々と情報を集める中で日本記者クラブで講演する動画を見つけた。当時テレビや動画をほとんど見ていなかったので、動いている著者を見るのを初めてだったのだが、twitter と違って、なかなか頭のよいまともな人だった。その後、ウクライナ情勢を知るために、いろんな動画を見ているうちにすっかり著者のファンになってしまった。
 
 ということで「ウクライナ戦争 (ちくま新書) 」を kindle で買ったのだが、それを読み切る前に図書館からこの本が回ってきたので先に読んだ。  ロシアがどういうことを考えているのかがよくわかる本だった。初版が2019年7月なのだが、「第1章 「ロシア」とはどこまでか――ソ連崩壊後のロシアをめぐる地政学」と「第2章 「主権」と「勢力圏」――ロシアの秩序観」は、まるでウクライナ戦争が始まってから書かれたかのようにロシアの動きにピタリとハマっていた。以降の内容もなるほど、ロシアとはそういう考え方をする国なのかとうなずけるものだった。
 
 特に記憶に残ったものをいくつか。
 
 「ロシアにしてみれば、第二次世界大戦におけるロシアの勝利は、ナチス・ドイツという人類悪から欧州を開放する戦いだったのであり、ロシア国民とはそのような歴史的偉業を共に担った同志としてイメージされる。」(p.113)
 ナチス・ドイツといえば、日本ではユダヤ人に対するホロコーストが真っ先にイメージされるが、独ソ戦での民間人を含むソ連側の死者の数が数千万人といわれることを考えると、ロシアではこうなるのは当然か。ウクライナに対してプーチンからナチス、ネオナチという言葉よく出てくるのはこのあたりに有るのだろう。
 
 ロシアのインターネット上の工作、SNS 上にデマやプロパガンダを流す際に AI を使うようになるだろう、という話が出てくる(pp.121-122)。いまは技術的に困難だが、いずれ実用化されるだろうと書かれているのだが、この分野は中国の得意分野なのでロシアより中国が先に実用化するだろう。というか、すでに実用化されていて、簡単にはフェイクとは見抜けない情報がかなり出回っているのかもしれない。怖い怖い ><。
 
 中国とロシアは決して仲が良いわけでは無い。「果たして中国はどこまで踏み込むつもりなのだろうか。そして、ロシアにとってのレッド・ラインはどこに引かれており、それを中国が超えた場合、ロシアはどのように反応するのだろうか。」(p.238)
 覇権主義国家である中国は、ロシアに対しても隙あらばと狙っているのは間違いない。今回のウクライナ戦争では、ロシアは勝っても負けても国力は大きく落ち込む。中国とロシアのバランスが崩れたとき、ロシアのレッド・ラインはどこに動くのか、中国がそれを踏み越えずにうまくやれるのか。大量の核を持つ大国同士の関係がどう動くのか。不安の種は尽きない。
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 佐藤優氏が週刊現代での連載「名著、再び」で小泉氏の本(確かウクライナ戦争の200日)を取り上げ、内容を細かく否定していた。佐藤氏が取り上げた部分も、否定した内容も全く覚えてはいないのだが、この本を読んだ限り小泉氏がそんなに出鱈目を書くようにはちょっと思えない。

 自分の連載とはいえ「名著、再び」で最近出た若手研究者の本を否定するために取り上げるとは、佐藤氏もだいぶ追い詰められているようにも見える。佐藤氏の本は、以前だいぶ読んだのだが、最近は全然読んでいない。ウクライナ戦争絡みの本を一冊読んでみようか。

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