とっても難しい本、大学の工学部の基礎講座かなにかで三ヶ月とか半年とかかけてやりそうな内容。おまけに日本語もわかりにくい。手馴れたライタがリライトすれば、もう少し読みやすくなっただろうに。
特に前半が難解で普通なら挫折するところだったが、意外な文脈でマクスウェルとかシャノンとかフォン・ノイマンとかの聞き覚えがある名前が出てきたおかげでなんとか乗り切ることが出来た。半分ぐらいしか理解できていないと思うが、それでも「科学」と「技術」ちがいはなんとなく理解できたとおもう。どうせなら「研究」と「開発」の違いも書いてくれるとありがたかったのだが。
後半はだいぶわかりやすくなったが、それでもかなり難解。理解できた部分でも同意できる部分と同意できない部分が半々ぐらい。
一番しっくりこないのは、労働集約型技術に「匠」や「技」が必須と考えているらしいこと。工場の派遣労働者や女工哀史で語られる工員がそんなものを持っているとは考えにくい。
ソフトウエアついても認識がおかしい。第三章の終わりにこんなことが書かれている。
次に、ソフトウェアは完全に普遍化された技術ということである。作られた瞬間だれでも理解し真似をすることが出来る。ある形状のノズルをミクロンの精度で深絞りする技術は、製作者個人の力量に属するものであり、他人が一朝一夕で真似することは出来ない。ソフトウェアはこれと異なり、一定レベルの知識があればだれでも理解できるし真似も出来る。名人芸とは対極の性格であると言ってよい。後に述べるように、日本がソフトウェアで突出した人材や成果を生み出せないのは、ここから来ている。
逆だろう。
本書の最初の方で、三菱東京UFJ銀行が基本勘定系のソフトウェアの統合に三千億円かけた例が書かれている。仮にこのうちの半分(一千五百億円)が人件費として、一人月百万円でエンジニアを雇ったとすると、十五万人・月ということになる。開発期間が一年だとすれば、一月あたり12,500人である。期間限定のプロジェクトにこれだけの人材を集められるのであれば、それらの人材の大部分は「普遍的」すなわち飛びぬけて優秀ではないと筆者が考えても不思議ではない。ただ筆者が勘違いしているのはこのプロジェクトは「突出した成果」ではないということだ。
いや、これほどの規模のプロジェクトを成功させるのがどれだけ大変かはわかるが、海外に輸出して外貨を稼げる性質のものではない。
たとえば google を考えてみるとよい(今のあそこがソフトウエア会社かというのはちょっとおいといて)。世界中から優秀な人材(技を持った匠)を集め、社内で少人数のプロジェクトをいくつも立ち上げ、世界的な競争力を持ったシステムをいくつも立ち上げていく。ついでに言えば、扱っているのはインターネットと自然言語という著者の言う「複雑さ」と「不確かさ」の極にあるものだ。
オープンソースのプログラムも、有名なものは大抵名の通ったプログラマが一人や二人はいる。この本の著者は、OSS なくしてインターネットが立ち行かないことを理解していないのではなかろうか?
# もっとわかりやすいのは、これだろう。これだけのものを一時間でやるというのは一朝一夕で出来るものではない。もっともこれに限っていえば、技よりは芸だろうが (^^;
結局日本のソフトウエアが、ほとんど国際競争力をもてないのは、技や匠が必要な世界に人海戦術で挑んでいるからではなかろうか?
オイラの専門分野でこれだけ考え方が違うと、あまりよく理解できない他の部分の信憑性もかなり落ちてしまう。
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苦労して読んだ割には満足感にかける。多分に消化不良。80冊もある参考文献のなかには気になるものもあるが、それらを読破していくほどヒマでもない。
時間の無駄だったとはいわないが、読まないほうがよかった気がする珍しい本。
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